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さくらの惑い

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 3月11日
  • 読了時間: 5分

「お待たせしました…作楽さん?」




ふいに呼びかけられて、涙を誤魔化すように振り返ると


バイトの女の子が立っていた




「何かあったんですか?」




「あ、ううん。何でもないの(苦笑) 美味しそうなメニューばかりで


迷っちゃうくらいよ♪」




取り繕う作楽の笑顔にホッとして、女の子も向かいの椅子に座る




「カフェモカがおススメですよ♪」




「ほんと?じゃあ、それにしようかな…あ、稀依ちゃん。


ケーキもどう?」




「わあ♪いいですねえ(≧▽≦)」




見た目にもお洒落で、このくらいのお年頃だと


気難しい性格の場合も多いが、見た目に反して彼女は


話してみると素直だし、とっても楽しいのだ




「…じゃ、注文してくるね。ここは私に任せて!


なんてったって、稀依ちゃんの就職祝いなんだから♪」




そう言ってレジカウンターに向かう作楽




「すみません…ありがとうございます。あ、そうだ、作楽さんに


これ…見せたかったの…」






テーブルに戻った作楽に恐縮して、手元のポーチから


あるチケットを差し出す稀依




「あら…なあに?コンサート…?」




「はい。作楽さんだから、打ち明けるんですけど…////」




そう言って、急に真っ赤になる稀依




「ん?なになに…?」




(コソコソコソコソ………………)




?!




な、なんだってぇぇぇ?!!




こっそりと耳打ちされた内容に、目を白黒させながら


唖然とする作楽




「誰にも内緒で…お願いです…絶対に、内緒ですよっ…」


稀依は終始、恥ずかしそうに俯き、上目遣いで懇願する




「あ、当たり前よ…そんな、大それたこと…」




あたふたと慌てながら、なんとか頷くしかない作楽




「でも、良かったの?私なんかに話しても」




急に上がった体温を冷ますべく、手で仰ぎながら


カップを口にする作楽




「……///」




急にしおらしくなり、珈琲をこくんと飲み込む稀衣




「誰かに…聞いて欲しくて…」




穏やかな作楽の視線に促され、続ける




「ずっと前から大好きで、でもそれは


1人のアーティストとして、だったかも…


でもずっと、本気で会いたいと思ってた…」




「……」




「偶然知り合えたと思ったら、今度はあまりにも急展開で…


自分でも思うの…のめり込み過ぎじゃない?…でも


止められないの…////」




「…恋ってのは、走り出したら止められないもんだからね


稀衣ちゃん。それは、本物の恋だ。私にも分かるよ」




「/////」




「ち、ちょっと、泣かないでよ、稀衣ちゃん💦」




「ごめんなさい、平気です💦


ずっと、誰かに聞いて欲しくて…でも


誰にも話せない…作楽さんなら、


分かってくれると思って……////」




「…泣くことなんかないじゃない。


怖がる必要もない。相手も稀衣ちゃんを求めるからこそ


そんな関係になったんだ。お互いに運命の相手だからこそだよ」




「…うわーん…作楽さん、ありがとう…///」






「…そういう事か…よし。それじゃ


知り合いのよしみで、絶対にナイショにするし


私は何があっても稀衣ちゃんの味方だ」




遠い昔に忘れていた甘酸っぱいものを感じて


作楽は微笑みながら、珈琲を飲み干した




その日の夜、作楽は夢を見た


目覚めた時、一瞬ぼんやりとしたが、すぐにハッとして


書斎にあるPCを立ち上げ、『夢日記』と書かれたファイルをクリックすると


ある部分に修正をかけていく…




………………………………


………………





洋輝に連れられ、その場所に向かった




あたりは薄暗く、廃屋のような場所だ




キョロキョロと見回す作楽。突然


照明がつき、スポットライトに照らされた匡輝が姿を現す




まるで…ニューシングルのPV用の撮影現場みたい




作楽一人の為に、繰り広げられる魅惑の時間…




作楽は、連れてきてくれた洋輝の事も忘れ


目を輝かせて観ている




だがよく見ると、匡輝のすぐそばに稀依がいた


やがて歌が止み、匡輝は稀依を見つめて


静かに微笑んでいる




思わず駆け寄り、その腕に抱きつくと


匡輝も稀依を抱きしめて髪を撫でる




匡輝は稀依の耳元に唇を寄せ、




「………」




と何かを囁いて、ニヤッと笑いかける




「///キスして……ください…///」




周囲の景色が、まるで何も見えていてないかのように


その温もりに酔いしれ、懇願する稀依




匡輝が顔を近づけて、唇が触れそうになった…




「…ただのファンのつもりなら、此処でも良いが…」




そう言って後ろにいる作楽をチラッと見遣る匡輝


振り返るとバンドメンバーたちが、ただ黙って音を奏でている




「………」




何かを言われて、物凄くときめいた作楽は


夢心地のまま彼から離れ、ここに連れてきてくれた


洋輝と、元来た道を戻ろうとする




気がつけば、よく見た顔が次々と訪れている


ごく僅かな、コアなファンだけが呼ばれた


特別な時間だったようだ




戻ってきて欲しい




そう言うのを忘れていた自分に気がつく




だって今、あなたは稀依一人だけのもの


稀依を抱きしめ、微笑んでいる


その笑顔は、彼女一人だけのもの




やがて稀依は、それまで一緒にいた作楽とも別れ


ある部屋に辿り着いた




匡輝が、稀依だけの男になり


その温もりに包まれる




その光が、こんな限られた空間で


魅惑のオーラを解き放つ




待ち焦がれる皆の元に、戻ってほしい…




その言葉を、ついに最後まで言えずに


ただ彼の愛撫に翻弄されていく稀依




ときめいた、あの時の言葉を


思い出せない…




だからもう一度、その夢を見たい


その続きを……




必ず戻ってきてと、きっと言うから…





………………


………………………………






仕上がったものを改めて読み込んで、ため息をつく




(…はあ、やっぱりこれ…ただの夢じゃなかったのね…)




作楽にとっても、愛する推しに違いない彼


例え、稀依の運命の相手とは言え、いちファンとして


これからも推し活は続けさせてもらいたい




それくらいは、許されると思うけど…♪




それにしても、一緒に行くと言っていた、その歌手の名前、


どこかで聞いたような…はて、どこだっけ…?




ひとり、PCデスクの前で腕を組んで考え込んでいると


洋輝が部屋を覗き込んできた




「起きてるの…?お着替えはまだなのかなあ…?手伝おうか♪」




そう言って、ニヤニヤしている洋輝




(…朝っぱらから、バッカじゃねーの?)




内心そう悪態をつきながら、いたって冷静に言い返す




「うん、もう着替える…何か言ったよね?ダメだよ~だ(笑)」




推し様の輝きとは雲泥の差があるけれど


こんなくだらない会話が平気で出来る、洋輝との生活も


決して悪くない




作楽はPCを閉じると、着替えをしに寝室に戻って行く…





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丸太小屋の階段を降りると辿り着く桜の木
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