top of page

ふたつの百合

  • 執筆者の写真: RICOH RICOH
    RICOH RICOH
  • 3月18日
  • 読了時間: 3分

更新日:3月25日


魔界

 

イザマーレの屋敷

 

いつものように執務室で公設秘書の仕事をこなしていたリリエル

 

………!!………

 

突然、身体が引き裂かれたような痛みが走る

滝のような汗が吹き出し、震えが止まらない

 

「リリエル?どうした、リリエル!!」

 

急変したリリエルの様子に、イザマーレが駆け寄る

 

(………………)

 

痛みに悶えるリリエルの脳裏に、理恵の意識が感応する

 

「…だ…だめよ…そんな…っ…////」

 

どうしていつも、自分ばっかり背負い込んで…

肝心な時に自分ひとりで勝手に決めて…

 

そのせいで、何度、彼らを苦しめたと思うの…!

 

今度は絶対、貴女も助けるって

貴女の存在を知らされた時から決めてたんだから…!

 

お願い…お願いだから………………っ

 

私は…貴女なんかに負けない…

 

イザマーレの腕に抱きかかえられながら

だんだんと意識が遠退いていくリリエル

 

リリエルの様子を危ぶみながら、彼女の脳裏で駆け巡る言葉を

全て感じ取っていたイザマーレ

 

もう一人の彼女である梅の霊、理恵に起きた異変に気付き

リリエルの部屋に置かれた魔水晶に手を翳す

 

地上でも魔界でもない、闇の世界で

倒れ込む理恵を抱きかかえるウエスターレンの姿が見えた

 

(……すまないな…リリエル………)

 

元は、ひとつの魂なのだ

本体と、一部の霊魂。だが、それぞれに強大な力を持つ故に

やがては元の器に収まり切らなくなる事を、すでに知っていたのだろう…

 

だからと言って、どちらとも吾輩の傍を離れるなど

いかにもリリエルらしいが…そんな事、吾輩が許す筈なかろう?

 

リリエルを抱き上げ、寝室に向かうとすぐさま扉を閉ざし

躊躇なく命を吹き込んでいく…

 

 

闇の世界

 

倒れ込んだ理恵の腕を取り、抱きかかえるウエスターレン

 

「おい!しっかりしろ!!」

 

ウエスターレンは右腕のブレスレットの中から水筒を取り出し

口移しで飲ませていく

 

事前にベルデに伝え、急遽忍ばせておいた命の水だ

何を隠そう、かつてリリエルが処刑され、理性を失いかけた俺が

渾身の力をもって世界を凍らせた、あの時の氷塊を

厳重に保管していたものだ

 

(…お前の事を救ってやりたかったのは、イザマーレだけじゃない)

 

10万年の時を超えて、さらに半世紀に及ぶ歳月も過ぎて

まだ俺自身は、何もしてやれずにいた

 

唇を離すと、命が流れゆくのを押し止どまり、頬に赤みを差し始めた

 

「…これはほんの応急処置だ。あとは、イザマーレの元に引き渡す…」

 

彼女を抱き上げると、魔界に瞬間移動で消えて行く…

 

 


コメント


丸太小屋の階段を降りると辿り着く桜の木
bottom of page