Ⅴ魔界の休日
- RICOH RICOH
- 2024年12月11日
- 読了時間: 4分
魔界全体が公休となるこの日
暦など、まったく無関係で、膨大な職務が溜まり続ける屋敷では
今日もいつもの光景が繰り広げられている
午前中
屋敷全体の家事を済ませ、リリエルは執務室で公設秘書の仕事に
とりかかっていた
少し前に、イザマーレはウエスターレンと共に寝室に向かい
扉を消している
ウエスターレンの腕に包まれ、甘いキスを交わしながら
愛し合う2魔…
そんな最中、渦中のオルビガーノは屋敷の中に入り込み
執務室の扉越しにそぉーっと眺め、リリエルの様子を窺う
「…あら?オルビガーノ。そんな所でどうしたの?」
気が付いたリリエルが朗らかに笑いかけると、デスクに近寄り
リリエルの仕事捌きを面白そうに見つめるオルビガーノ
さっきから、両手は後ろ手に組み、お尻は小刻みに揺れている
退屈しのぎにお散歩しがてら、興味あるものを片っ端から覗いて
楽しんでいるように見える
「クスクス…退屈そうね?お仕事を覗いても、楽しくはないでしょ?」
リリエルが優しくツッコミを入れるが、オルビガーノは得意げに
デスクの淵に腰かけ、足をぶらつかせ、後ろ手に隠していた木の実を
そっと置く
「…あら! テラスで天日干ししてた実を、持ってきちゃったのね?」
梅雨明けの晴天続きで、青からベージュっぽい赤に変色し、
ほんの少し粉をふいてるその実。見るだけで唾液が出てきそうだ
オルビガーノは、リリエルにもらったガラス瓶を取り出し
ワクワクした表情で見つめる
「…あ、分かった。ジュースにしてほしいのね?でも、駄目よ。
赤く干した実は、ジュースにはならないわ。梅ジュースは
青い実を熟成させて作るのよ。…飲みたいの?」
「…」
手にした赤い実とリリエルを見比べ、
腑に落ちない表情を見せるオルビガーノ
青い実のジュースは、すでに飲ませてもらって、とても美味しかったから
赤い実も、リリエルに見せたら喜んでジュースにしてくれる…
そう目論んでいた当てが外れたのだ
「梅ジュースじゃなくて、その赤い実を使って何かを作って欲しいのか…
梅干しは、そのままでも美味しいよ?」
オルビガーノはリリエルの言葉に驚いて目を丸くする
「まだ浅いから、カリカリじゃないかしら。」
リリエルに促らされ、恐る恐る、前歯で齧り、その途端
顔を窄めて震えるオルビガーノ
「(´∀`*)ウフフ…酸っぱいけど、クセになるでしょ?」
オルビガーノの仕草が愛らしくて、笑顔を浮かべたまま
プライベートルームのキッチンに向かうリリエル
ほんの少し、お湯をわかし、ティーカップに注いで
オルビガーノに差し出す
「…はい。ここに、残りの実を入れて。少し、ふやけてきたら…」
にこにこと振り返ったリリエルが驚き、言葉に詰まる
目の前に居たのは、小人の精霊ではなく
精悍な顔つきの男性だったからだ
「…?…あれ、満月でもないのに…どうしたの?」
「//////…」
恥ずかしそうに、俯くオルビガーノ
「…ひょっとして、梅干し食べて、酔っぱらっちゃった?」
口元に手を当て、覗き込むように見つめるリリエル
たしかに。
予想外の出来事だった。
今、この瞬間、夜の姿に変わるとは、オルビガーノ自身も
思いもよらぬ事だった
だが気が付けば
いつも見上げていた憧れの存在が、自分よりも低い位置にいて
見上げてくる、その視線の愛らしさ
しかも、プライベートルームという、魅惑の場所で…
魔界クラスのイケメン悪魔は、見慣れているリリエル
これまでオルビガーノが居た世界の住人とは違い
本来の姿になっても、変わらない対応を続けるリリエル
その無防備な事といったら…
刹那
リリエルのすぐ後ろにイザマーレが姿を現し、
彼女を抱きしめ、髪を撫でる
「…あ、閣下♪お疲れ様です♪…ゆっくりお休みになれましたか?」
嬉しそうに振り返り、そのまま抱きつくリリエル
「そうだな…この後は、ベルデの森で恒例のお茶会だ。
一緒に行こうな、リリエル…」
オルビガーノの目の前で、惜し気もなく口唇を重ねるイザマーレ
「…オルビガーノ、お前も来い。千載一遇のチャンスを
木偶人形のように棒立ちで逃すとは…惜しかったな♪」
「…////////」
イザマーレに従いながら、真っ赤になって俯くオルビガーノ
「も、もう…閣下ったら…////////」
オルビガーノの目の前で、キスされたことが恥ずかしくて
口を尖らせるリリエルだったが、オルビガーノは別の事を考えていた
イザマーレの言う通り。
あまりに突然の出来事で、身動きできず、固まってしまったが
心の中は、暴風雨が吹き荒れていた
見つめるリリエルを抱きしめ、ベッドに押し倒し…
あんなことや、こんなことや…////////
という、男子ならばごく自然の衝動が、オルビガーノの脳内にも
湧き起こっていたのだ
そして、かつて居た世界の、王とのやりとりを
ぼんやりと思い返していた
あの時、王の抱いていた感情が、どういった種類のものだったのか
ここにきて、ようやく理解したオルビガーノだった
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